第23章 絡み合う影
打ち上げが終わる頃には、会場の空気は柔らかい疲労感と安堵に包まれていた。
笑い声や拍手が徐々に落ち着き、誰もが心地よい余韻に浸りながら片付けや挨拶を始めていた。
彼女もまた酔いが残る頭で周囲に頭を下げ、スタッフと握手を交わす。
――これでやっと部屋に戻れる。
心の中でそう思っていた矢先。
歌「送っていくよ、心配だから。」
歌い手がそう声をかけてきた。
軽い調子で笑いながらも、その瞳には真剣さが滲んでいた。
断るべきなのに、口が動かない。
「……ありがとう。」
小さくそう答えてしまっていた。
2人でホテルへ向かう道すがら、夜風が頬を撫でた。
街は深夜の静けさに包まれ、打ち上げの喧騒が嘘のように遠ざかっていく。
酔いで火照った頬に冷たい風が心地よく、それでも胸の奥の熱は冷めなかった。
ホテルのロビーに入り、エレベーターのボタンを押す。
煌々とした照明の下、隣に並んだ彼の存在がやけに大きく感じられた。
エレベーターが到着し、中に入る。
自動的に閉じる扉が、外界を切り離してしまう。
狭い空間に2人きり。
その瞬間、理性の糸がふっと緩んだ。
「……っ。」
気づけば、彼女は彼の腕に身体を寄せていた。
ほんの少し触れるだけのつもりだった。
けれど酔いの熱が背中を押し、肩を重ね胸を預けてしまう。
歌「お、おい……大丈夫?」
驚いた声が耳に届く。
その声に正気を取り戻すどころか、余計に胸が高鳴った。
心臓が暴れるように打ち、唇が震える。