第23章 絡み合う影
「だって……本当にうれしかったんだもん。」
ぽつりと漏らした言葉は、酔いに浮かされ素直すぎる響きだった。
彼は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑んで
歌「ありがとう。」
と返す。
その笑顔が優しくて、また胸が締めつけられる。
気がつけば、彼女は自然に体を寄せていた。
肩が触れる距離。
笑いながら彼の腕に手を回す仕草すらしていた。
(だめだって、だめだって……。)
心の奥で必死に叫んでも、酔いが理性を簡単に追い払ってしまう。
隣にいる彼の体温と香りが、それ以上に強烈に意識を支配する。
歌「……大丈夫?」
彼が少し心配そうに覗き込んでくる。
その距離の近さに思わず胸が高鳴り、彼女はかすかに笑って
「平気……。」
と答えてしまう。
平気なはずがない。
頬は赤く、声は甘く震えていた。
その様子に、彼の表情が少し柔らかくなったのを見逃さなかった。
気づけば、彼女は腕を絡めるようにして彼に寄り添っていた。
まるでずっと隣にいたいかのように。
酒を飲まないと決めていたのに。
もうすでに、その決意はどこか遠いものになっていた。