第22章 理性を閉じ込めて
打ち上げの会場はライブの熱気そのままに盛り上がっていた。
スタッフもメンバーも笑顔で、テーブルには料理や飲み物が所狭しと並べられている。
湯気を立てる鍋、照りのある肉料理そしてきらめくグラス。
グラスにはアルコールもソフトドリンクも混ざり合い、手早く席を回るスタッフによって次々と差し出されていった。
彼女は――
自分に言い聞かせていた。
(タツヤとなとりに言われたんだ。お前は酒を飲んだらエロくなる、って……。だから、今日は絶対に飲まない。)
最初の1杯は烏龍茶を頼んだ。
それを口にして胸を撫で下ろす。
だが、乾杯の時に差し出された別のグラスを無意識に受け取ってしまったことに気づかなかった。
色もほとんど同じ。
香りも甘く、飲みやすい。
ス「ノンアルですよ。」
と勧められたその1杯は、実際には軽めのカクテルだった。
口当たりが良く、飲みやすいせいで彼女は気づかずにぐいと半分ほどを飲んでしまう。
すぐに頬が熱を帯び、心臓が少し早く脈打つのを感じる。
(……あれ、なんか変……?)
だが周囲はにぎやかで、気づく者はいない。
スタッフは乾杯の言葉を叫び、ゲストの歌い手に
ス「最高のサプライズでした!」
と称賛の言葉を投げかける。
その輪の中で、彼女はいつしか自然に彼の隣へと座っていた。
歌「お疲れさま、本当に素敵なステージだったよ。」
彼が柔らかな笑みで囁く。
その声が近い。
カクテルの熱が全身を駆け巡り、理性の輪郭が少しずつぼやけていく。
「え、えへ……ありがとう……。」
彼女は気づけば彼の肩に軽く触れていた。
それが自分の意思かどうか、もはや曖昧だった。
歌「楽しかったよ、また一緒にやりたいね。」
言葉に合わせて彼が笑うと、胸の奥がドクンと跳ねた。
理性が小さく警告を発する――
(まずい、これは酔ってる。)
でも、その声はすぐに熱に溶けてしまう。
気づけば、彼の袖を指でいじるように触れていた。
少し近づいては笑い、彼の言葉に頷き視線が合うと目を逸らす。
周囲のスタッフが
ス「2人お似合いですね。」
などと茶化す声が聞こえ、頬がさらに熱を帯びた。