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上書きしちゃった

第22章 理性を閉じ込めて


喉の奥で息を呑み、視線を逸らす。

そっとドアを開け、静かに廊下へと足を踏み出した。

部屋を出た瞬間、張り詰めていたものがふっと緩む。

けれど安堵ではない。

むしろ、胸の中には重苦しいざわめきが残っていた。

な「……俺だけを見てほしいのに。」

誰にも届かない声でつぶやき、リビングの灯りへと足を進める。

背後のドアの向こうで眠る彼女を思いながら――。




──────────────

ツアーファイナルの会場。

照明が熱を帯びて肌を照らし、客席からの歓声が地鳴りのように響き渡る。

ここまで駆け抜けてきた日々のすべてが、この一瞬に凝縮されていた。

マイクを握る手は汗ばみ、胸の奥は高鳴りで震えている。

しかし歌い出した途端、そのすべてが溶けていった。

音楽に包まれる瞬間だけは、迷いも不安も消えていく。

最後のブロック、スタッフからは“サプライズがある”と聞かされてはいた。

ただ詳細は知らされていない。

観客の期待に満ちた空気に戸惑いながらも、次の曲のイントロが流れ始める。

そして――

ライトが切り替わった瞬間。

そこに立っていたのは、先日コラボをした歌い手だった。

客席が一斉にどよめき、悲鳴のような歓声が広がる。

彼はスポットライトを浴びながら笑顔を浮かべ、自然にステージ中央に歩み出てきた。

まるで最初から用意されていた位置を知っているかのように。

「……っ。」

思わず息を呑む。

胸の奥が熱く跳ねた。

彼と目が合った瞬間、その笑みに一瞬で引き込まれてしまう。
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