第21章 揺らぐ理性
タ「俺たちの前以外で、酒はもう禁止。」
キタニが断言するように告げる。
その口調はあまりに真剣で、冗談の余地を与えなかった。
「は? ちょっと、それは……。」
タ「ちょっとじゃねぇよ。」
食い気味に遮る。
タ「お前さ、自覚ないの? 酒飲むとすぐ人にくっついて、ろくなことにならない。今日だって危なかったんじゃないのか?」
図星を突かれ、胸の奥が痛む。
先ほどのやりとりを正直に言えばきっと2人は怒る。
けれど隠しても、彼らの目は全てを見抜いているようで怖かった。
な「……本当に、俺たち以外の前で飲むのは禁止。約束して。」
なとりも低い声で加わる。
普段穏やかな彼の声音が冷ややかに響き、心臓が縮み上がった。
「わかった……。」
小さくうなずくと、2人の表情が少しだけ緩んだ。
だが安堵というよりは、ようやく制御した、という険しさが残っていた。
沈黙の中、女は再び思い返す。
あのときのときめきは本当に恋だったのか。
それともただの酔いが見せた幻想だったのか。
けれど――
2人の視線に絡め取られている今、答えは出せそうになかった。
──────────────
湯船に身体を沈めた瞬間、全身の緊張がほどけていくのを感じた。
ほわりと立ち上る蒸気に包まれ頬に残る火照りが酒のせいなのか熱のせいなのか、もはや区別がつかない。
背中を浴槽の縁に預けて、天井を仰いだ。
ふと、浴室の隅に置いたスマホが光を放つ。
手を伸ばし、水滴が落ちないよう注意しながら画面を確認すると――
そこには見慣れぬ通知が並んでいた。
送り主の名前を見た瞬間、胸の奥が跳ねる。
歌い手の名前。
「……えっ。」
思わず声が漏れる。
指先が熱を帯び、心臓が速くなる。
メッセージには短く、しかし真っ直ぐな言葉が並んでいた。