第21章 揺らぐ理性
最初の1杯を飲み干したとき、女は
「あ、本当にこれで終わりにしなきゃ。」
と心に言い聞かせた。
だが歌い手が次の缶を自然な手つきで開け
歌「もう少しだけ。」
と差し出してくると、その決意は簡単に揺らいでしまう。
彼の笑顔があまりに自然で、断る方が不自然に思えてしまったのだ。
「じゃあ……これで最後ですからね。」
そう言いながら受け取る。
彼は
歌「了解。」
と軽く笑うが、その目は明らかに“どうせもう1杯くらいなら”と読んでいるようだった。
炭酸の刺激とアルコールの熱が重なり、頬にじんわりと赤みが差す。
ほんの数口でも、身体は正直に反応していた。
話題は次第にレコーディングからプライベートなことへと移り、女は自然に笑い声をあげていた。
憧れてきた人が目の前にいて同じ空気を吸い、同じリズムで笑っている。
夢のようで、現実感が揺らいでいく。
歌「かやちゃん、思ったよりおしゃべり好きなんだね。」
「えっ……そんなことないですよ。」
歌「いや、良い意味で。もっと無口で緊張しっぱなしなのかと思ってたから。」
からかわれて頬を膨らませる。
その表情に彼は愉快そうに笑った。
そして気づけば、女は自然と彼の腕に触れていた。
すぐに“しまった”と思ったが、引っ込められない。
彼のシャツの布地越しに感じる熱と固さ。
ほんの軽いタッチなのに、鼓動が早まっていく。
歌「酔ってる?」
彼が覗き込むように問う。