第21章 揺らぐ理性
静寂が戻る。
荒い呼吸だけがリビングに響き、3人の体が重なり合って沈み込む。
キタニは頭をソファの背に預け、まだ乱れた息のまま笑う。
タ「……はは、結局2人とも限界までやったな。」
なとりは女の髪を撫でながら、汗に濡れた額へ口づける。
な「……ひどい顔してる。でも、かわいい。」
女はか細い声で
「……2人とも、もうむり……。」
と呟き、閉じた瞳のまま2人に身を預けるしかなかった。
リビングの灯りの下、3人の熱と吐息がゆっくりと落ち着いていく。
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数日後の夜、スマホの通知が小さく鳴った。
メッセージを確認すると、差出人は――
以前イベントで出会った“大ファンの歌い手”からだった。
歌【この前はありがとう。すごく楽しかった。……コラボしたいんだ】
心臓が跳ねる。
画面を持つ指が汗ばんでくる。
彼の曲は昔から何度も聴いてきたし、歌い手としての憧れを抱いてきた相手。
そんな人物から直接“コラボしよう”と誘われるなんて、想像もしていなかった。
女はしばらく返信をためらい、結局無難にこう打った。
【うれしいです。……私でよければ。録音したのをお送りする形でも大丈夫ですか?】
数分後、すぐに返事が返ってきた。
歌【もちろんそれでも良いけど……正直、家で一緒に録ったほうがもっと良い作品になると思う。細かいニュアンスとか、掛け合いのテンポとか、隣で合わせた方が絶対に自然だから】
短い文章なのに、説得力があった。
彼の楽曲をこれまで何度も聴いてきたからこそ、“もっと良いものを作れる”という言葉が真実味を帯びて響く。
――でも、家に行くのはどうだろう。
胸の奥に小さな不安がよぎる。