第20章 ほどける夜
キタニだった。
ジャケットを椅子にかけながら、鋭い目で女を睨んでいる。
タ「ステージ降りた後もずっと気ぃ張って見てたんだぞ。打ち上げでべたべたしたら……冗談抜きで、場の空気も俺たちの関係も、終わってたかもしれない。」
説教口調の声が胸に突き刺さる。
だが女は酔いのせいか、素直に反省するよりも逆に甘えたくなってしまう。
「んー……でも、2人は特別だから……だいじょうぶだもん……。」
そう言って今度はキタニに近づき、ソファに座った彼の膝に半ば強引に乗るように抱きついた。
タ「ちょっ……おい!」
彼の胸元に顔を埋めると、淡い香水と汗の混ざった匂いが広がる。
心地よさに目がとろんと閉じ、吐息が彼のシャツを濡らす。
キタニは一瞬たじろいだが、すぐに顎を掴み上げて視線を合わせさせた。
タ「……わかってんのか? “ここ”だからまだ良いんだぞ。」
「……ここ、だから……良いの?」
舌足らずな問いかけに、彼の瞳がぎらりと光る。
女の肩を押さえ、強引に唇を奪った。
「……っん。」
驚きに声が漏れる。
だが舌を絡め取られ、抵抗の余地もなく身体が熱に支配されていく。
横で見ていたなとりは息を呑み、手にしたグラスをテーブルに置いた。
な「……2人ともさ、俺もいるんですけど。」
そう言いながらも、彼の目は女の潤んだ表情に釘付けになっている。
キタニは唇を離し、女の頬を指先でなぞりながら低く呟いた。
タ「なとりも、黙って見てるだけじゃ物足りないだろ。」
な「……っ、そういう煽り方しないでくださいよ。」
女は2人のやり取りを耳にしながら、すでに理性の糸がほとんど切れていた。
「……2人とも、一緒に……そばにいて……。」
甘えた声が夜のリビングに溶けていく。
キタニの手はそのまま女の太腿をなぞり、なとりもソファに腰を寄せ彼女の髪を撫でる。
重なる熱と吐息の中で酔いはさらに深く回り、女は抗えないまま2人の腕に絡め取られていった。