第20章 ほどける夜
歌「そうですよ。歌い方にすごく感情があって、動画で聴いたときからずっと気になってました。まさか同じイベントに出られるなんて。」
夢のような言葉が耳に飛び込み、頭の中が真っ白になる。
推しの歌い手に直接そんなふうに言われるなんて、想像したこともなかった。
「そ、そんな……! 私こそ、ずっとファンで……歌もすごく聴いてて、今日お会いできるって知ったときから緊張してて。」
声が裏返りそうになるのを必死に抑えながら、言葉を重ねる。
相手は穏やかに笑い、グラスを掲げた。
頭「じゃあ、今日はご縁に乾杯ですね。」
「は、はいっ。」
互いにグラスを合わせた瞬間、胸が熱く跳ねる。
その横で、キタニが無言で枝豆を口に放り込んでいた。
なとりは、苦笑しながらも視線を外さない。
2人の会話を遮ることはしないが、わずかに漂う空気の変化に女も気づいていた。
それでも、会話は自然と弾んでいった。
歌作りの苦労、動画投稿時代の思い出、リスナーから届くコメントに支えられた話。
どの一言も、女の心を深く揺さぶる。
歌「やっぱり生で歌うと、画面越しとは全然違う。今日のステージ、すごく良かったですよ。」
「ほんとに……? うれしい……。」
酔いが回っているわけでもないのに、頬が熱くなる。
相手はさらに距離を詰めてくる。
歌「今度、もしよければ一緒に歌ってみませんか? コラボとか、動画でもステージでも。」
「えっ……そんな、夢みたい……。」
胸の奥がふわふわして、現実感がどんどん薄れていく。