第19章 夜の衝動
タ「……もう1人で抱え込むな。俺がいるんだから。」
その言葉に胸の奥に溜まっていた恐怖がじわりとほどけ、涙が滲んだ。
「……ありがとう。」
嗚咽混じりに呟くと、キタニは短く
タ「馬鹿。」
と返し、震える身体を強く抱き寄せた。
リビングの窓の外には夜の闇が広がっている。
けれど、さっきまで背中にまとわりついていた冷たい視線の感覚は、まだ消えないままだった。
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会場の熱気は、終演後もまだ冷めやらなかった。
ボカロ・歌い手界隈の豪華なイベント。
出演者も観客も多く、ステージ裏は興奮の余韻に包まれていた。
女は楽屋のソファに腰を下ろし、深呼吸を繰り返す。
客席から送られたペンライトの波、合唱のような歓声、耳に残るリズム。
それらすべてがまだ身体にまとわりついている。
タ「おつかれ。」
タオルを肩にかけたキタニが、ペットボトルを差し出した。
「ありがとう……。」
受け取った水を口に含むと、乾いた喉にじんわりと染み渡る。
隣にはなとりもいて、手にした缶ジュースを軽く掲げて笑った。
な「今日のお客さん、めっちゃ熱かったね。俺まで楽しくなった。」
「うん……ほんとに。みんな優しいし、歌いやすかった。」
そんな会話を交わすうちに、主催者から
ス「打ち上げの会場に向かいましょう。」
と声が掛かった。
出演者たちは次々と荷物をまとめ、わいわいと談笑しながら会場をあとにした。