第19章 夜の衝動
キタニは女の腕を引き起こし、背中に庇うように立ちふさがる。
タ「友達? ……ふざけんな。勝手に入ったんだろ、どうやって入った?」
鋭い問いに、バンドマンは肩をすくめて笑った。
バ「どうやって、って。」
視線は終始女に向けられていた。
バ「俺たち、ただの知り合いってわけじゃないよな?」
わざと含みを持たせて言う。
彼女の顔から血の気が引き、唇が震えた。
その反応を見て、キタニの拳が強く握られる。
タ「……ふざけんなよ。今すぐ警察呼ぶぞ。」
低い声で吐き捨てる。
しかし男は1歩も引かず、むしろ楽しそうに目を細めた。
バ「そんなに怒るなよ。今日は帰るよ?」
軽い足取りで玄関の扉に向かう。
立ち去る直前、わざわざ振り返り女としっかり目を合わせてから薄く笑った。
バ「また、会おうな。」
そして扉が閉まる。
残されたのは震える女と、その肩を掴んだまま怒りを抑えきれないキタニ。
タ「……説明しろ。今の、どういうことだ。」
声は冷たく、彼の瞳にはまだ動揺と苛立ちが混じっていた。
女は言葉を失い、ただ唇を噛みしめるしかなかった。
張り詰めた沈黙が玄関に重く垂れ込み、時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。
重苦しい沈黙の中、2人はリビングへと移動した。
灯りをつけても玄関に残ったあの男の影がまだそこにいるようで女は落ち着かず、ソファに腰を下ろした途端に肩を抱きすくめた。
キタニはテーブルに手をつき、深く息を吐いた。
タ「……で? 説明しろよ。あいつが“友達”なんて、どういうことだ。」
責めるような声に胸が締め付けられる。
女はスマホを握りしめ、しばらく躊躇った末、画面を開いた。
そこには数日前に届いたバンドマンからのDMが並んでいる。
――最近家にいないけど、どこに逃げてるの?
――返事もしないで、冷たいな。
――俺のこと、忘れた?
不気味な文字列が並んでいるのを見て、キタニの眉間に深い皺が寄った。