第19章 夜の衝動
何気なく開いた画面に表示されたのは、あのバンドマンからのDMだった。
――最近家にいないけど、どこに逃げてるの?
一瞬、息が詰まる。
画面を見つめたまま指先が固まった。
どうして、彼がそんなことを知っているのか。
「……え……?」
小さな声が漏れる。
心臓の鼓動が早まり、背筋に冷たいものが走った。
彼と最後に会ったのはフェスの時。
あの後、何事もなかったように去っていったはずだった。
それなのに、彼女の生活を覗き見ているかのような言葉が送られてきた。
“家にいない”――
どうしてそんなことが分かるのか。
彼女自身の居場所まで把握しているような口ぶりに、ただならぬ不気味さを覚えた。
胸騒ぎを抑えようと女は返事を書こうとしたが、指が震えて文章が打てない。
結局、送信ボタンに触れることもできず、そのままスマホを伏せてしまった。
「……なんで……。」
頭の中で何度も繰り返す。
どうして彼が、こんなふうに自分を見ているのか。
リビングの窓に目をやると、カーテンの隙間から夜が覗いている。
誰かに見られている気がして、思わずカーテンを閉め切った。
録音した歌声がパソコンから流れ続けている。
普段なら心地よいはずの自分の声が今はどこか遠く、空虚に響いていた。
彼女は胸に抱いた不安を消せないままスマホの画面を何度も見返しては、そこに浮かぶバンドマンの言葉に囚われていった。