第18章 密室に沈む
その場の空気に呑まれ、頭の中が真っ白になる。
「……わ、わかった。」
そう答えるしかなかった。
次の瞬間、2人の表情が同時に緩んだ。
ただし、その笑みは全く違っていた。
キタニの笑みは安堵と独占欲を隠しきれないもの。
なとりの笑みはどこか愉快そうで、挑発めいている。
こうして、かやの意思など置き去りにしたまま――
3人での同居生活が決まってしまった。
翌週。
新しい生活のため、必要最低限の荷物をまとめてキタニの部屋に運び込む。
そこにはすでになとりの荷物も運ばれており、リビングには彼のギターケースが無造作に置かれていた。
「……ほんとに始まっちゃったんだ。」
玄関で靴を脱ぎながら、小さく呟く。
タ「心配すんな。俺が全部守るから。」
背後でキタニが断言する。
な「僕も守るよ。……ただ、タツヤさんに任せっきりじゃ不安だから。」
なとりもすかさず言葉を重ねる。
2人の間に立ちながら、かやは苦笑するしかなかった。
けれど――
胸の奥では不安と同じくらい、妙な高揚感が芽生えているのを自覚していた。
ストーカーの影に怯える毎日が、これからどう変わっていくのか。
そして、この危うい三角関係の同居生活が、どんな結末を迎えるのか。
かやにはまだ、想像すらできなかった。
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玄関を開けた瞬間、ふわりとアルコールの匂いが鼻をかすめた。
な「……あれ?」
なとりは靴を脱ぎながら眉をひそめる。
リビングからテレビの音と氷がグラスに当たる、かすかな音が聞こえてきた。
な「ただいまー……。」
声をかけても返事はない。
だが、間違いなく誰かがいる気配がする。
足音を忍ばせてリビングを覗くとテーブルの上には空になった缶ビールがいくつも転がり、さらに日本酒の瓶まで無造作に置かれていた。
ソファには女がぐったりともたれ掛かり、手に持ったグラスを半分傾けながらぼんやりとテレビを見ていた。
な「……おいおい。」
なとりは思わず苦笑する。
な「ひとりで晩酌って……どんだけ飲んだの。」
声をかけると、女はゆっくりと顔を上げた。
赤らんだ頬にとろんとした目。
「……あ、なとりぃ……おかえりぃ。」
舌がもつれた声でそう言うと、ふにゃりと笑みを浮かべる。