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上書きしちゃった

第18章 密室に沈む


な「やだなぁ、こんなに優しく手を差し出されたのに。僕だけ遠慮するなんて、不公平じゃない?」

囁きながら、彼は頬に掛かる髪を指で払う。

その仕草が妙に艶めいて、逃げ場を失う。

彼の指先がかすかに首筋に触れるたび観覧車が小さく揺れ、心臓がさらに乱れる。

タ「……お前、何してんだよ。」

低い声がゴンドラに響く。

キタニだった。

な「何って……ただ、手をつないだだけですよ。」

なとりは軽い口調で返す。

だが腕の力は緩まない。

かやを抱き寄せたまま、余裕のある笑みを浮かべていた。

タ「……そうは見えない。」

短く吐き出すキタニの言葉に、かやは胸を締めつけられる。

――2人の間に挟まれてしまった。

どうすれば良いのかわからない。

「……なとり、ほんとに……離して。」

必死に声を絞り出すと、彼はわずかに首を傾げた。

な「ふーん……じゃあさ。」

耳元で囁きながら、腕をさらに強く回す。

な「本当に嫌なら、ここで大声出しても良いんだよ?」

挑発めいた言葉に、身体が硬直する。

観覧車の中。

外には大勢の人。

ここで声を上げればすぐに気づかれてしまう。

けれど、そうはできなかった。

な「……やっぱり。」

なとりの目が細められ、笑みが深くなる。

な「優しくされるのに、弱いんだね。」

言葉と共に顔が近づき、視界いっぱいに彼の瞳が迫る。

息が触れ、唇が触れそうな距離。

タ「やめろ。」

鋭い声が遮った。

キタニだ。

タ「それ以上近づいたら……ぶっ飛ばすぞ。」

低く抑えた声に怒りが滲む。

彼の拳が震えているのが見える。

なとりは一瞬だけ目を細め、そしてわざとらしくため息をついた。

な「……怖いなぁ。冗談ですって。」

そう言いながらも、腕を緩めるのはほんのわずか。
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