第18章 密室に沈む
観覧車の小さなゴンドラの中、張りつめた空気を和らげようと、かやはおそるおそるなとりに手を差し伸べた。
「……手、つなご?」
その言葉に彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐに柔らかな笑みを作った。
だが次の瞬間その笑みの奥に、どこか影のようなものがちらりと覗いた。
な「……優しくすると、痛い目見るよ。」
囁くように言いながら、そのままかやの手を強く掴む。
引き寄せられた腕に身体がつられ、バランスを崩す。
「きゃ……っ!」
ゴンドラがわずかに揺れ、重力に抗えずかやはなとりの胸に倒れ込んだ。
その拍子に背中がシートに押しつけられ、彼の腕が素早く腰を抱きとめる。
倒れ込んだ形のまま、距離はゼロに縮まった。
な「……ほら、言ったでしょ?」
目の前で囁かれる声。
いつもの人懐こいトーンとは違い、低く熱を帯びている。
息が触れ合うほど近い距離に心臓が跳ねる。
「な、とり……っ。」
呼ぶ声は震えていた。
視界の端に、無言で座るキタニの姿が映る。
彼はじっとこちらを睨みつけるように見ていた。
帽子の下の目は暗く光り、何かを堪えるように拳を握り締めている。
「……離して。」
小さく声を上げても、なとりは笑みを崩さない。