第2章 譲れない想い
なとりに唇を奪われた余韻がまだ消えず、女は息を整えることすらできなかった。
胸の奥が焼けるように熱い。
自分の手を強く握っていたなとりの温もりと、その真剣な眼差しに呑まれてしまいそうになる。
そんな彼女を横目でじっと見ていたキタニは、ふっと小さく笑った。
タ「……なるほどな。随分積極的じゃん、なとり。」
わざと気楽そうな声色。
だがその指先はグラスを強く握りしめ、氷がまた鋭く音を立てた。
なとりは臆せず言い返す。
な「本気ですから。……俺は。」
彼の真剣さが漂う空気を重くする。
だがキタニは1歩も退かなかった。
タ「へえ。本気ね……。」
言いながら、すっとソファから腰を上げると、女の隣へと自然に移動した。
彼女は驚いて身を竦める。
「え……タツヤ?」
次の瞬間、彼は女の肩を抱き寄せた。
タ「悪いな、と。なとりに先越されたのが、ちょっと癪でさ。」
軽口を叩きながらも、その目は笑っていない。
「えっ、な、なにを──。」
言葉を遮るように、キタニの唇が女の口元を覆った。
柔らかく触れるだけのキスではない。
深く、強く、女の息を奪うほどに。
彼の舌が強引に割り込んできて、なとりとのキスとはまるで違う熱を注ぎ込む。
「……っん……。」
女の体が強張り、抗おうとしても肩を押さえ込まれて動けない。
息が苦しいほどに長く、絡み合う。
酔いも手伝って頭がぼんやりしていく。
やっと唇が離れたとき、女は荒い息を漏らしてソファに沈み込んだ。
頬は真っ赤で、目は潤んでいる。
キタニはそんな彼女の顔を見下ろしながら、余裕の笑みを浮かべた。
タ「……な? 俺だって、負けてねぇだろ。」
わざとらしくなとりに視線を向ける。
なとりの表情が険しくなる。
な「……ふざけてるんですか。」
声は低く抑えられているが、拳が震えていた。
タ「ふざけてなんかないよ。」
キタニは軽く肩をすくめた。
タ「お前が真剣なら、俺だって本気だって見せなきゃな。」
その言葉は軽口に聞こえるのに、視線は真剣そのものだった。