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上書きしちゃった

第2章 譲れない想い


キタニは肩を支えられるようにソファに沈み込み、ため息をひとつ落とした。

タ「けどな、とりあえず今の主役はなとりだろ。俺じゃなくて。」

わざと引いた態度を見せたが、その言葉は場を軽くするどころか、なとりの決意をより強める。

なとりは女にまっすぐ向き直った。

な「……だからこそ譲れないです。」

そう言うと同時に、彼は女の手を掴んだ。

「え……?」

驚きで声が漏れる。

次の瞬間、そのまま引き寄せられるようにして距離を詰められた。

頬が触れるほど近づいたと思ったとき、なとりの唇が彼女の唇を塞いだ。

一瞬、時間が止まる。

女の目が見開かれ、息が喉で止まる。

酔いで火照っていた体が、さらに熱を帯びる。

柔らかな感触に、心臓の鼓動が暴れるように高鳴った。

「……っ。」

小さな声が漏れ、女は掴まれた手を振り解くこともできずに固まった。

ソファの隣で、キタニがじっとその光景を見ていた。

グラスを持つ指先に力がこもり、氷がカランと音を立てる。

けれど止めることも茶化すこともせず、ただ奥歯を噛み締めるだけだった。

なとりが唇を離す。

な「……これで少しは、伝わりましたか。」

掠れる声で囁く。

女は顔を真っ赤にして、視線を逸らした。

「な、なにして……。」

声が震える。

な「俺、本気です。」

なとりの言葉は揺るぎなく、重い。

一方で、隣のキタニは軽く笑った。

タ「おーい、勢いでキスとか……お前ら若ぇな。」

冗談めかした声。

けれど、その奥にほんのり苦い響きが混じっていた。

女はまだ混乱したまま、手を引かれた余韻に戸惑っている。

胸の奥で熱と鼓動が止まらず、返事をしようとしても言葉が出ない。

なとりの視線は真っ直ぐで、キタニの横顔は曖昧な影を帯びている。

2人の間で、女はただ呆然と揺れるしかなかった。

リビングの時計の秒針の音がやけに大きく響き、3人の沈黙を切り裂いていた。
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