第16章 揺れる境界線
答えの出ない問いが胸を渦巻き、嫉妬と苛立ちが混じり合う。
ステージ上で燃え上がった熱は、今や別の感情に姿を変えて全身を支配していた。
タ「……落ちてた、なんて……。」
小さく吐き捨てるように呟いたが、彼女もマネージャーも聞き取れたかどうか分からない。
視線を彼女に向けても、彼女はなお顔を上げられない。
その沈黙こそが、キタニにとって最大の痛みだった。
――このままでは終わらない。
胸の奥で確かにそう呟く自分を、彼は自覚した。
フェスの喧騒が遠のき、夜の冷えた空気が2人を包む。
車内も、帰り道も、ずっと無言のままだった。
彼はハンドルを握りしめ、視線を前に固定している。
彼女は隣の助手席で小さく身を縮めていた。
何か言葉を探そうとしても彼の横顔に遮られ、喉から音にならなかった。
やがてマンションの前に車が停まる。
エンジンが切れる音がやけに大きく響き、沈黙に拍車をかけた。
タ「……降りろ。」
短く吐き捨てるように言われ、彼女は頷いてシートベルトを外す。
玄関に辿り着くまでの数秒がやけに長く感じられた。
鍵を取り出し、震える手でドアを開ける。
その瞬間、背後から腕を掴まれ勢いよく中へ押し込まれた。
「――っ!」
背中が壁にぶつかり、玄関の灯りが2人の影を濃く映す。
彼はドアを乱暴に閉め、重い音が静かな部屋に響いた。
息を整える間もなく、彼の体温が間近に迫る。