第15章 囚われの夜
な「……そんな、こと……。」
絞り出した声は怒りと苦しみに満ちていた。
震える呼吸が耳元に掛かる。
な「俺が……もっと早く気づいていれば……守れたのに。」
その声は震え、唇がかやの髪に触れるほど近くで囁かれる。
な「ごめん……ごめんな……。」
なとりの声も震えていて、彼自身も泣いているのがわかった。
横で、キタニが黙って煙草を弄ぶ音がした。
いつもなら皮肉を投げる彼も、この瞬間ばかりは沈黙を守っていた。
部屋に満ちるのは、嗚咽と苦しい呼吸だけ。
それでも、ようやく口にできた真実に少しだけ心が軽くなる。
「なとり……。」
泣き腫らした声で名を呼ぶと、彼はすぐに返してくれた。
な「大丈夫。俺がそばにいる。もう絶対に、そんな目に遭わせない。」
その言葉は震えていて、でも強い決意に満ちていた。
かやは涙でぐしゃぐしゃのまま、ただ彼の胸に顔を埋めて泣き続けた。
過去の痛みは消えない。
けれど──
こうして抱き締められながら、少しずつ心が解けていくのを感じていた。
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真夏の陽射しの下、巨大な野外ステージは熱気に包まれていた。
観客のざわめき、リハーサルの音響チェック、スタッフの声が入り乱れフェス独特の慌ただしさが漂う。
かやは出演者用のパスを首から下げ、キタニの隣で控室からステージ裏へと歩いていた。
彼はいつも通り落ち着いた表情をしているが目の奥は鋭く、観客に見せる笑顔とはまるで違う。
タ「緊張してる?」