第15章 囚われの夜
熱に浮かされた時間が、ようやく静けさを取り戻し始めていた。
荒い吐息が少しずつ整い絡み合った体を解きながら、かやはシーツに身を横たえた。
全身に残る余韻と、どこか満たされぬ痛みがじんじんと残っている。
隣では、なとりが背中に腕を回したまま、じっとかやを抱きしめていた。
汗ばんだ肌の温もりが落ち着きを与えてくれるはずなのに胸の奥は逆に重く、息苦しい。
な「……かや。」
耳元で、低く静かな声が落ちた。
先ほどの熱に浮かされた調子とは違う。
優しいけれど鋭く、真剣な色を帯びている。
な「さっきからずっと聞けなかったけど……何があったのか、ちゃんと教えてほしい。」
体がこわばる。
喉が張りついて、声が出ない。
な「俺、さっき……自分の欲に流されて、かやを強く抱きすぎた。でも……本当に怖いのは、それじゃないんでしょ。」
なとりの指先が震えながら、かやの頬を撫でた。
目が合うと、その瞳は苦しげに揺れていた。
な「さっきの……バンドマン。あいつが残した痕を見たときから、ずっと胸がざわついてた。……なにをされたの?」
「……。」
声が詰まる。
答えたら、もう戻れない。
そう思うと胸が苦しくなる。
代わりに、目から熱いものがこぼれ落ちた。
ぽたり、とシーツに落ちる。
な「泣かなくて良い……でも、教えて。」
なとりの腕が強くなり、逃げられない。
彼の温もりに包まれるほど、心が壊れそうになる。
「……っ。」
堪えきれず、嗚咽が漏れた。
唇を震わせながら、やっと声を押し出す。
「無理やり……。」
なとりの体が固まった。
「無理やり……個室に連れ込まれて……どうしても嫌だったのに……。」
涙が止まらない。
視界が滲んで、言葉も途切れ途切れになる。
「抵抗した……でも、力で押さえつけられて……っ、やめてって言ったのに……。」
声が震え、胸の奥が張り裂ける。
思い出すだけで、呼吸が苦しくなる。
「……最初から、壊されるみたいに……荒くて……怖かった……。」
嗚咽混じりの声が途切れる。
手で顔を覆っても、涙は止まらない。
なとりは何も言わなかった。
ただ強く、抱き締める腕の力が増していった。