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上書きしちゃった

第14章 熱に捕らわれて


夜の街を抜け、タクシーに押し込まれるようにして3人は移動した。

車内は沈黙が支配していた。

運転手の軽快なラジオの声だけが耳に入ってくるが、誰も反応しない。

窓の外を流れる街灯の光が、一瞬ごとに車内の表情を照らし出す。

その光の中で、なとりの心配そうな横顔とキタニの険しい瞳が交互に映し出され胸が締め付けられる。

辿り着いたのはキタニのマンションだった。

夜の静けさの中、外灯に照らされた建物は冷たく、どこか無機質に見える。

無言のまま部屋へと上がりリビングに通された瞬間、空気はさらに張り詰めた。

タ「……座れ。」

キタニが短く言う。

その声は穏やかに聞こえるのに、逆らえない圧があった。

かやはソファに腰を下ろす。

隣に座ったなとりが落ち着かない様子で手を組み、視線を泳がせている。

キタニは立ったままかやを見下ろし、しばらく沈黙した後、低い声で言った。

タ「……あのトイレで、何があった。」

直球の問い。

心臓が強く脈打つ。

「な、何も……。」

答えようとするが、声が震える。

タ「何も? あいつが“ごちそうさまでした”なんて言ってたのに?」

キタニの口調は冷ややかだが、その奥には明らかな怒りが潜んでいる。

なとりも黙っていられず、かやの肩に手を置いて問いかけた。

な「……本当に、何もなかったの? 俺、信じたいけど……。」

その優しいはずの言葉が、今は刃のように胸に突き刺さる。

信じたい。

でも信じられない。

なとりの瞳は揺れていて、その揺らぎが余計に苦しかった。
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