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上書きしちゃった

第14章 熱に捕らわれて


キタニは黙ったまま腕を引き続け、ただ前を見据えている。

店の出口が近づくにつれて、その歩調はさらに早くなっていた。

店員が

ウ「ありがとうございました。」

と声をかけてくるが、誰も返事をする余裕はなかった。

外の夜風に触れた瞬間、ようやく肺に新しい空気が流れ込む。

それでも胸の苦しさはまるで晴れなかった。

街灯に照らされた通りに出たところで、キタニが立ち止まる。

タ「……ここじゃ落ち着かないな。」

彼はようやく掴んでいた腕を放す。

しかしその余韻が、まだ皮膚に熱を残していた。

なとりは1歩前に出て、かやの顔を覗き込む。

な「なあ、教えて。何があったんだよ。あの人に……。」

その視線は真剣で、でもどこか責める色を帯びている。

心配と苛立ちの狭間で揺れる瞳に射抜かれ、かやは視線を逸らすしかなかった。

「……何も、されてない。」

それは嘘だった。

けれど、真実を言えるはずもなかった。

なとりはしばらく黙ったままかやを見つめ、やがて小さく息を吐く。

な「……本当に?」

問い詰めるその声に、胸が締め付けられる。

タ「やめろ。」

低い声が割って入る。

キタニだった。

タ「今は詰めても仕方ねぇだろ。……落ち着け。」

そう言い切る彼の声は冷静に聞こえるが、奥底には明らかな怒りが潜んでいた。

なとりも言葉を飲み込み、静かに唇を噛んだ。

夜風が3人の間をすり抜けていく。

繁華街の喧噪が遠くに響いているのに、この小さな空間だけが異様に静まり返っていた。

タ「……とにかく、ここから離れよう。」

キタニが再び歩き出す。

なとりは無言で頷き、かやはただ2人に挟まれるようにしてついて行くしかなかった。

夜の街を3人で並んで歩きながら、足音だけが規則正しく響く。

けれど心の中では、それぞれが異なる感情を抱えたままだった。

キタニは怒りを抑えながら先を見据え、なとりは言葉にならない不安を抱き、そしてかやは……

羞恥と罪悪感に押し潰されそうになっていた。

それでも3人は離れず、ひとつの影となって夜の街を進んでいった。
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