第13章 密室の罠
バ「ごめん。いきなり……でも、話したくて。」
彼の声は低く、酒気を帯びている。
けれどただ酔っているだけではない。
眼差しには熱が宿り、冗談めかした軽さは一切消えていた。
バ「番組で歌聴いて……ずっと、気になってたんだ。ステージ上じゃ言えなかったけどさ……かやさんの声、耳から離れなくて。」
吐息が近い。
女は戸惑い、後ずさろうとしたが狭い個室の中で逃げ場はほとんどない。
「ちょ、ちょっと……。」
必死に声を絞り出す。
バ「怖がらせるつもりはない。ほんとだよ。」
男は腕を掴んだまま、真っ直ぐに見つめてくる。
バ「でも……俺、今逃したら後悔するって思った。連絡先とかじゃなくて……もっと、ちゃんとかやさんを知りたい。」
その言葉には真剣さがあった。
だが同時に、酔いが後押しする衝動的な危うさも漂っている。
胸の奥でざわめくのは恐怖と困惑、そして――
どこかで感じる視線の重み。
キタニとなとり。
2人の存在が脳裏をよぎる。
こんな状況を知ったら、きっと――。
「……やめてください。」
女は小さな声で告げ、掴まれた腕を振りほどこうとした。
しかし男の力は予想以上に強い。
バ「お願い、少しだけで良いから……。」
彼の手が肩に触れ、顔が近づく。
唇が重なった。
一瞬の触れ合い――
それだけで終わるはずだった。
だが男は深く口づけ、舌を求めてくる。
アルコールの苦味と熱が混じり、女は抵抗の言葉を失っていった。
「……っ。」
息を吸う間もなく背を抱き寄せられ、さらに深く口内を探られる。
絡め取られる感覚に頭が白くなる。
背中に冷たいタイルの感触。
押しつけられるようにして壁に凭れたまま、女は荒い呼吸を繰り返していた。
男の吐息はすぐ耳元にあり、低く濡れた声が囁く。
バ「もう……止められない。」
唇が首筋を辿り、敏感なところをくすぐる。
そのたびに、アルコールに火照った身体は過敏に反応してしまう。
「……ん、だめ……。」
拒もうとする声が、いつの間にか甘い吐息に変わっていた。
彼の手が服の裾をまくり上げ、太腿を撫でる。
触れられるたびに、逃げたいのに膝が力を失い体を預けるしかなくなる。