第13章 密室の罠
会場の奥まった場所にあるトイレへ向かう廊下は、打ち上げの喧騒から切り離されたように静かだった。
少し足取りがふらつく。
グラスを置いてきて正解だった――
そう思いながら、角を曲がったそのとき。
「――あ。」
鉢合わせたのは、さきほど番組で共演していたバンドのボーカルの男だった。
黒いシャツの胸元を少し開け、グラスを片手にしている。
まだ酒が残っているらしく、頬が赤い。
バ「こんばんは。……いや、さっきぶりか。」
軽く笑みを浮かべ、彼は自然に挨拶してくる。
「お疲れさまです。」
女も会釈を返す。
ほんのそれだけで通り過ぎるはずだった。
だが。
バ「ちょっと待って。」
次の瞬間、腕を掴まれた。
驚いて振り返る間もなく男の力に引かれ、トイレの個室へと押し込まれる。
「え……?」
狭い空間に閉じ込められ、心臓が跳ね上がる。
男はドアを閉め、背中で鍵をかけた。