第2章 譲れない想い
こうして、予期せぬ3人の飲み会が始まった。
最初こそ微妙な沈黙が漂ったが、やがて音楽の話題に移ると空気が和らぐ。
なとりは真面目に語り、女は頷きながら楽しそうに聞き時折キタニが皮肉混じりに茶々を入れる。
タ「お前、ほんと熱いな。」
な「そうですかね…。」
タ「でも嫌いじゃない。真っ直ぐで。」
女はそんな2人を眺めながら、胸の奥に奇妙な高揚感を覚えていた。
自分の大切な人たちが同じ空間で笑っている。
けれど同時に、その笑いの奥に潜む緊張をも感じ取っていた。
グラスの中で氷が溶け、夜はゆっくりと深まっていく。
笑い声と沈黙の間に、言葉にできない感情が少しずつ積もっていった。
テーブルの上には、空いた缶やグラスが増えていた。
時計はすでに夜の10:00を回り、ゆるい空気が部屋を包んでいる。
「もー…あははっ……。」
女は頬を赤らめ、いつもの落ち着いた声色とは違う少し高い調子で笑っていた。
酔いが回り、キタニの肩に頭を預ける。
タ「おい、大丈夫か?」
「だいじょーぶ……タツヤってさ、ほんと頼れるんだよねぇ。」
タ「はぁ?」
「だって、こうやって横にいると安心するんだもん。」
女は無邪気に笑いながら、彼の腕に絡みついた。
なとりはその光景を正面から見てしまい、胸の奥がざわりと波立つ。
表情は崩さないよう努めたが、手に持つ缶ビールの冷たさすら感じにくくなる。
――こんなに自然に甘えるんだ。
彼女の笑顔の中に、自分が入り込む余地はないのだろうか。