第12章 拒絶と欲望の狭間で
タ「――悪いけど。」
横から伸びてきた声が遮った。
キタニだった。
手にしたペットボトルを軽く振りながら、飄々とした態度のまま男の前に立ちはだかる。
タ「彼女、そういうの気軽にOKするタイプじゃないから。」
バ「え?」
ボーカルがきょとんと目を瞬く。
タ「それに、今は俺たちと一緒に動いてる。……だろ?」
視線を横に向け、女に確認するように笑う。
それは優しい笑顔に見せかけながら余裕のある線を崩さない、彼特有の煽るような色を帯びていた。
女が答えに迷っていると、別の方向から声がする。
な「……すみません。」
少し控えめに、しかしはっきりと。
なとりだった。
彼はマイクを外したばかりの姿で、まだ汗をかいたまま女の隣に立つ。
な「彼女、僕たちと一緒に帰るので。」
真っ直ぐな瞳で相手を見る。
その表情に遠慮はない。
バ「ああ、そうなの?」
バンドのボーカルは少し肩をすくめる。
バ「いや、別に悪気はないんだ。ただ純粋に、また音楽の話できたらって思って。」
な「その気持ちは分かります。」
なとりが頷いた。
な「でも……ごめんなさい。彼女、今はそういうつもりじゃないと思うので。」
言葉は丁寧だが、その奥に嫉妬の影があるのを女は感じ取った。
キタニは横目でなとりを見て、鼻で笑った。
タ「言い方が堅いんだよ。――まあ、でも結果は同じだろ。彼女は連絡先交換なんてしないから。」
2人の間に小さな火花が散った。
喧嘩というほどではない。
けれど空気がじわじわと熱を帯びる。