第12章 拒絶と欲望の狭間で
タ【じゃあ、次は俺の曲を歌えよ。……お前の声で聴きたい】
なとり。
な【僕も……。僕の曲、歌ってくれたら、すごく嬉しい】
息を呑む。
2人の想いは真逆の形で迫ってくるのに、本質は同じ。
――自分を独占したい。自分だけを見てほしい。
画面の前で動けなくなる。
彼らの言葉が甘く重く絡みついて、逃げ場を塞ぐ。
偶然なんかじゃなかったのかもしれない。
歌った歌詞のひとつひとつに、自分の感情が滲んでしまっていたのかもしれない。
胸に手を当てると、まだ早鐘のように打ち続けていた。
彼らからのメッセージが、深く沈んで離れない。
「……どうして、こうなるんだろ。」
弱く笑う。
けれど、唇の端は震えていた。
スマホの画面には、まだ既読がついていない新しい通知が光っている。
2人の視線に挟まれたまま女はその小さな光を見つめ、答えのない夜に沈み込んでいった。
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特番の収録は、思った以上に華やかで目まぐるしかった。
ステージ裏はライトと歓声の余韻が渦巻き、アーティストたちの笑い声やスタッフの声が絶え間なく響いている。
女は共演者に軽く挨拶を交わしながらも、まだ緊張の余韻を抱えていた。
バ「お疲れさまです!」
背後から声をかけてきたのは、出演していたバンドのボーカルだった。
ステージ上では堂々とした姿を見せていた彼が、今はフランクな笑みを浮かべて近づいてくる。
バ「さっきのトーク、面白かったね。歌も聴いたよ。声がすごく綺麗でさ。」
「あ、ありがとうございます……。」
戸惑いながらも笑みを返す。
こういうやりとりは珍しくない。
けれど彼の目はどこか真っ直ぐで、軽口では済まされない気配を帯びていた。
バ「もしよかったらさ、今度一緒にセッションしない? 連絡先、交換しても良い?」
その瞬間。