第9章 離れることは許されない
お粥を口に運びながら少しよそ見をすると悟くんの髪が跳ねているのに気付き、慌てて直そうとお粥を置き手を伸ばした時、寝室の扉をノックする音が聞こえた。
玄関に入ってきてるの気付かなかった…。
「御子神さん、よろしいでしょうか?」
「あ…ちょ、ちょっとだけ待ってください!」
さすがに髪が跳ねたまま婚約者に会うのは嫌だろうと思い必死に直そうとする。
いやでも…悟くんしてるんだよね、こういうの見られてるんだろうな。
胸がチクっとした。
「私の旦那に何してるの!?」
「え…?」
旦那?結婚してないでしょ?婚約者なだけじゃないの?
いきなり扉を開けて入ってきた女性が、悟くんの髪を触ったままの私を突き飛ばし、悟くんに抱きつく。
この人…悟くんのこと好きなんだ。
「悟っ!よかった…生きてたんだね……悟が死ぬわけないよね…。」
「…ぁ…奏音…。」
悟くん嫌がってる、先程と声が違う。
婚約者の女性は何度も悟と呼びながら口付けた。
こんなの、見たくない…。
「あ、あの!拒否出来ない状態の人に無理やりするのはよくないと思います!」
「は?私の旦那だからいいでしょ。拒否しないし。」
悟くんが何度も私の名前を呟いている。
やめさせなきゃ…。
「ねぇ悟、私は雫だよ?」
猫撫で声で悟くんに話しベタベタ触っているのを見たくなくて入り口に目線を向けると、中年の男女がいて慌てて挨拶をしようと歩き出す。
…が、出来なかった。
悟くんに腕を掴まれた。
動けるの?
美しい蒼眼が私に助けてと訴えている。
そんな目で見られても…今のこの人には話が通じなさそう…。
「すみません、あの…少し落ち着いて話しませんか?悟くんはさっき目覚めたばかりで…。」
え、私のことフルシカト?
ではなかったようだ。
「あなた、悟としたそうね。まあしなきゃ術式を使えなかったみたいだし、ただの作業みたいなもんでしょ。」
アレは作業みたいなものだったのだろうか…すごく甘く優しく解された気がする。
というか、目が怖い。すごい睨まれてる。
確かにあなたにとっては私は浮気相手かもしれない。