第3章 看病の日々の中
「悟くん、早く目を覚まして…。」
伊地知さんが悟くんを連れてきてから、3ヶ月程経った。
桜が舞い散る季節、眩しい程美しかった蒼眼に影を落とし、燻んだ瞳は瞼の下から姿を現した。
悟くんが目を覚ました。
腹部の傷はほぼ治っている。
「悟くん?よかった…。」
声をかけても反応がない。
起きてはいるようなのだが、ピクリとも動かない。
耳は聞こえているのだろうか、感覚は、視力は…。
そっと指先に触れてみると軽く動く。
耳は…声をかけても反応がないので不安になった。
「ねぇ悟くん、聞こえてる?」
ダメだ…耳はわからない、目も見えているのかわからない。
反応があるのは触れた時だけ。
「お腹は空いてる?」
とりあえず10倍粥を作って、全力で彼を起こした。
悟くんを起こすだけでこんなに体力を奪われるとは…身体を拭いたりしていたので、きついとは思っていたが、もうヘトヘトだ。
いきなり起こして大丈夫だっただろうか…。
お粥を冷まして口に運ぶと薄く唇が開き流し込むと、ゆっくりと飲み込んでくれる。
「美味しい?…わけはないか。」
少しすれば普通のご飯が食べれるようになるよと声をかけて、ゆっくり食べさせていく。
何口か食べるともういらないと言うように口を固く閉じた。
「お腹いっぱい?」
虚ろな目を伏せて座った状態のまま動かなくなる。
少し濡れた唇を拭いて食器を片付けてから、身体を拭いた。
身体を拭くのはいつも慣れない。
だって、アレを触らなければいけないから。
なんとか拭き終わって横にならせるとボーッと天井を見つめている。
大丈夫なのだろうか…。