第7章 最強の術式
ご飯を作っているとシンクやカウンターを隔てて目の前で頬杖をつきじっと見つめてくる。
肘を離し起き上がったかと思うと、私の後ろに来て伊地知が来てから変だよとお腹に回した腕に閉じ込められた。
バレてた…気付かれないように平静を装うとしていたのだけれど…。
「まさか伊地知はないと思うけど……やなことされた?」
「ううん、されてない。伊地知さんはいつも優しいよ。」
じゃあどうしたのと少し背中を離して頭に顔を埋めてくる。
なんでもないと言っても嘘と返され、ぐぅっと腰を引き付けられた。
悟くんが呪術師に戻りたいとちゃんと言ってきたら話そう。
だからまだ言わないで…もう少し休んでて…。
「まあ、言いたくないこともあるよね。言いたくなったら言えばいい。大好きだよ。」
「私も、大好き…。」
出来るまで大人しく待っててと言えばソファに戻っていきテレビを見始める。
調理を再開した。
ご飯を食べてお風呂に入り、少しゆっくりしてからベッドに入る。
後ろから悟くんに抱き締められながらぐるぐると力のことを考えて眠れない。
だって…好きなのにえっちを出来ないなんて…。
今はまだ怖いけど、したいとは思ってる。
悟くんもずっと我慢をしてくれている。
何度も頭頂部にキスをしていた悟くんはいつの間にか規則正しい寝息をたてていた。
「……えっち…したいね。」
腕の上に回された彼の腕に力が入った気がしたが、気のせいだろう。
だって、寝てる…。
下着の中に手が入ろうとしたので慌てて止めた。
寝たフリとか酷い。
「したいんじゃないの。」
「い、今じゃなくて…。」
掴んだ手を掴み返されて顔の前で握ったまま動かなくなり、おやすみと言われ目を閉じた。
どうして祖母は教えてくれなかったんだろう。
結局眠れずにあれこれ考える。
彼が呪術界に戻ることや力を取り戻すことは大きな問題じゃない、悟くんが望むなら喜んで送り出す。
もし、死んでしまったら…もし、死ぬとわかっていても私としたいと言ったら…。
もう私には生き返らせる力なんてないんだから…。
握っている彼の手に口付けながらぎゅっと目を瞑った。
この温度が失くなってしまうのは嫌だ。
「悟くん…。」
ここに生きている愛しい人の名前を呟きながらいつの間にか眠っていた。