第6章 引越し
「ねぇ奏音、僕のお金使ってないでしょ。」
蝉が忙しなく鳴き声を響かせる季節。
冷房を効かせたボロアパートでエアコンと電気代の振込用紙を交互に睨んでいると、そんな風に声をかけられた。
「電気代払えないんでしょ。僕の通帳は?」
払えないのは仕事をさせてくれないからだ。
通帳を鞄の中から出し、悟くんを睨みながら渡した。
こんな通帳を家に置いて出れるわけもなく、鞄の底に厳重に保管していた。
引き落とされずにコンビニや金融機関で支払うよう振込用紙が届いたので、それと睨めっこしていると取られてしまう。
「散歩行こっか、銀行まで。」
その通帳からお金をおろして、その振込用紙で電気代を払う気だ。
頼りたくはなかったがこればかりはしょうがない、悟くんが仕事をさせてくれないのが悪いんだ、と理由を並べ立てる。
「他は大丈夫?払えてないものない?」
他は全て払えているので頷く。
「ていうか奏音、僕の携帯代も払ってるでしょ。なんで僕の使んないの。ご飯だって君のお金でさ…この僕がヒモなんてありえないんだけど。」
「すみません…。」
家を出て真っ直ぐ銀行に行くとATMでお金をおろし、窓口へ向かう。
払い終わると寄るところがあるからと手を引かれた。
「ねぇ、引越さない?」
いきなり何を…その身体ではあのアパートじゃ狭いってか。
いやまあ、2人だと結構きついんだけどさ…一人暮らしの物件だし。
考えとくと言って手を引かれるままについていくと、駅に入り電車に乗ろうとするので慌てて止める。
さすがに電車はダメだろう…バレたらどうするつもりなのだ。
「電車は嫌?タクシーにする?術式使えたらすぐなんだけどなぁ。」
「え、えっと……伊地知さんは!?」
わざわざ呼ばなくてもいいでしょと電車に乗っていく。
もうちょっと自分の立場を考えてくれないだろうか。