第2章 最強の死
「御子神奏音さんはいますか!!」
いきなりインターホンを押さずに玄関の扉を喧しく叩き、男性が声を荒らげている。
いつも穏やかだったはずの声だ。
久しぶりに聞くその声に懐かしさを覚えながら腰を上げ、玄関へと足を運んだ。
こんなボロアパートではどの部屋の住民にも聞こえているだろうと、急いで慌てた様子の伊地知さんを出迎えた。
「御子神奏音さんですか!?五条悟という者にあなたへ託すよう言われました!」
白髪の巨人を背負った少し皺の増えた伊地知さんが、上がってもいいですかと返事も聞かずに部屋に上がってくる。
巨人と言っても普通の人間だ、長身なだけ。
恐らくこのピクリとも動かない男が悟くんだろう。
よく1人で悟くんを運んできたな…と感心していると、伊地知さんは悟くんを壊れ物を扱うかのようにゆっくり丁寧に畳の上に置いた。
そして、その顔や身体を見て理解した。
五条悟は死んでいる。
「伊地知さん…どうして私のところに…?」
「五条さんがもし何かあったらあなたに託せと…。」
そうか、悟くんは知っていたのか……私に生き返らせる力があると。
とりあえず、大粒の汗を垂らし肩で息をする伊地知さんに飲み物を渡した。
「その後のことは聞いていますか?」
「あなたに託した後のことは、一切他言無用と言われています。」
託すということは、私が五条悟を隠し生かさなければいけない、ということなのだろう。