第11章 生きるために剣を振れ 【冨岡編 第1話】
そのとき、静かな足音が廊下を経て部屋の入り口に届いた。振り向くと、冷たい青の目を持つ義勇が立っていた。無表情のまま、廊下の光を背にして佇む彼の姿は、室内の空気まで凍らせるように静かで、ただそこにいるだけで圧倒される存在感を放っていた。
義勇は言葉を発することなく、私の様子をじっと見つめているようだった。しばらくの沈黙の後、低く抑えた声で告げた。
「……復讐だけに囚われるな。生きるために剣を振れ。」
その短い言葉は、義勇特有の冷静さと確かさを伴い、重く私の胸に響いた。感情を露わにしない義勇の言葉には、温かさではなく“力”が宿っている。私は戸惑い、少しだけ身を引くが、同時にその声に励まされる感覚を覚えた。
涙を拭い、私は膝の上で握った布に力を込める。義勇の姿が見えなくなるまで、私の視線は廊下の先に留まった。無表情の背中でさえ、何かを伝えようとしているように思えた。
「……生きるために、剣を振れ……」
私は小さく息をつき、刀に手をかける決意を新たにした。夜の静けさの中、風の音や虫の声が混ざる庭の向こうに、義勇の姿を思い浮かべながら、胸に小さな光を宿すように…
生きる力を取り戻そうと、ゆっくりと呼吸を整えていった。