第15章 記憶の断片 【時透編 第1話】
知令の怪我が癒え、蝶屋敷での療養を終えた頃、次の任務が下された。
場所は鬼が出没すると噂される山間部。階級の低い鬼殺隊員では対処が難しく、柱の誰かが派遣されることになったという。
任務の招集場所に向かう道中、知令は少し緊張していた。鬼との戦闘は、まだ慣れない。恐怖に負けないようにと自分を奮い立たせる。
「頑張らなきゃ……」
そう呟いた時、背後から静かな声が聞こえた。
「君も、この任務なの?」
振り返ると、そこにいたのは時透無一郎だった。相変わらず、どこかぼんやりとした表情で、焦点が定まらない目で知令を見ている。
「時透さん……!」
驚きとともに、知令は深々と頭を下げた。目の前にいるのは、前そばにいてくれた無一郎だった。
「今回の任務、一緒なんですね。」
「……うん。一緒だね」
無一郎はそう言うと、知令の隣を無言で歩き始める。その静かな佇まいに、知令は息をのんだ。
「あの……お久しぶりです」
知令がぎこちなく声をかけると、無一郎は少しだけ知令の方に視線を向けた。
「……君、確か…愛染知令だっけ。覚えてるよ」
「は、はい!ありがとうございます!」
知令は少し頬を赤らめる。悲鳴嶼との任務時、療養中の時を通して、名前を覚えてもらえていることが、ひどく嬉しかった。
「……君は、僕が……なんだか懐かしい。」
「え?」
無一郎が不意に口を開いた。その言葉に、知令は心臓がドキリと跳ねるのを感じる。懐かしいという言葉に、自分も同じような感覚を覚えたからだ。
「……私も、時透さんのこと、知っているような気がして……」
知令の言葉に、無一郎は何も答えなかった。ただ、遠くを見つめる瞳に、ほんの少しだけ感情の波が揺らいだように見えた。