第10章 父との約束、母の温もり
御館様は、静かに、柱たちに語りかける。
「しかし、彼女が両親を失った悲劇が、その『愛の呼吸』に、憎悪という新たな旋律を加え、彼女の内に秘められた力を引き出したのだろう。彼女が正気を失っていたのは、その憎悪の炎があまりにも強すぎたからだ。」
御館様の考察は、柱たちの心を打った。知令の優しさが、彼女を苦しめ、そして強さへと変えたという事実。それは、鬼殺隊士の過酷な運命を、改めて突きつけるものだった。
「御館様…では、彼女は、今後…」
煉獄杏寿郎が、震える声で尋ねた。
「そうだね。彼女の心は、今、鬼への復讐心に支配されているだろう。彼女は、もう、かつての知令ではないかもしれない。しかし、その力は、鬼殺隊にとって、必要不可欠なものだ。」
御館様は、静かに、そして力強く、そう言われた。
「そして、もう一つ、皆に伝えたいことがある。彼女は、あの時、自分がその力を引き出したことに、おそらく気づいていない。」
御館様の言葉に、柱たちは息をのんだ。
「彼女は、無意識のうちに、その力を開花させた。憎悪が、彼女の才能を、その心と共に狂気へと変えたのだ。だからこそ、皆に頼みたい。彼女の様子を、見守ってあげてほしい。彼女の心に、再び光が灯るように。そして、彼女が、鬼殺隊士として、正しい道を進めるように。そして正しく能力が開花できるように。皆の力が必要だ」
御館様の言葉は、柱たちの心に深く刻まれた。彼らは一斉に頭を下げた。
「御意…!」
御館様は、静かに微笑まれた。その笑顔は、どこか寂しげで、けれど、深い慈愛に満ちていたのだった。
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