第10章 父との約束、母の温もり
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夜が明け、太陽が顔を出し始めた頃、柱たちは御館様――産屋敷耀哉の前に集まっていた。彼の静かで、しかし、どこか力強い声が、会議の場に響き渡る。
「皆、よく集まってくれたね。今日は、皆に伝えたいことがある。」
御館様の言葉に、柱たちは静かに耳を傾ける。
「杏寿郎、天元、実弥。知令の様子はどうだい?」
杏寿郎が、一歩前に進み出る。
「御館様。彼女の意識はまだ戻っておりません。しかし、傷の治りは、驚くほど早いようです。」
御館様は、静かに頷かれた。
「皆も知っての通り、愛染家は、鬼殺隊を古くから支えてくれた、大切な存在だ。そして、知令は、その愛染家の、たった一人の娘。私は、幼い頃から、彼女のことを知っている。鬼殺隊に入る前は、物静かで、誰にでも優しく、そして、どこまでも気弱な子だった。」
その言葉に、柱たちの脳裏には、血に染まり、正気を失った知令の姿が浮かんだ。あの日の彼女は、御館様が語る、優しく気弱な少女とは、あまりにもかけ離れた存在だった。
「御館様。彼女は、下弦の鬼に匹敵する強さを持つ5体の鬼を、たった1人で討伐しました。しかし、その時の彼女は、正気を失っているように見えました。」
宇髄が、静かにそう告げた。その言葉に、他の柱たちも頷く。
「そうだね。彼女の身に、何が起こったのか、皆も知りたいだろう。」
御館様は、静かに、知令の身に起こった悲劇を語り始めた。両親を失い、復讐心に駆られ、彼女の内に秘められた力が、一瞬で開花したこと。そして、その力は、下弦の鬼どころか、上弦の鬼に匹敵するほどのものだったと。
「そんな、馬鹿な…」
不死川の言葉は、驚愕に満ちていた。
「皆、知令の呼吸は『愛の呼吸』だね。華奢な体で力が無くても頭をフル回転させて冷静に判断し無駄を落とした呼吸。人にも鬼にも寄り添いたい、そんな彼女の優しい心が生み出した、慈愛に満ちた呼吸だ。」