第10章 父との約束、母の温もり
しかし、愛染の動きは、その攻撃を遥かに上回っていた。
「…殺して…やる…」
愛染は、鬼の動きを完璧に見切っていた。まるで、鬼の攻撃が、彼女の視界に入っていないかのように。もっと深く、もっと激しい、何かが彼女の身体を駆け巡っていた。
「…なんだ、あの動きは…!」
宇髄が驚愕に目を見開き、不死川は黙って見ていた。
愛染は、鬼の攻撃をすべてかわし、鬼の懐に潜り込む。そして、愛刀を強く握りしめると、一振りの下弦の鬼を倒せるほどの斬撃を放った。
「…愛の呼吸…肆ノ型、愛多憎生(あいたぞうせい)。」
「ぐああああああ!」
鬼は、信じられないという顔で、自分の首を触った。次の瞬間、鬼の首は、私の目の前で、音もなく崩れ落ちていった。
俺たちは、ただ、その光景を、呆然と見つめることしかできなかった。
下弦の鬼に匹敵する力を持つ鬼を倒したのだ。
いや、確かに下弦の鬼に匹敵するだけであり、鍛練している者ならば簡単に首を取れたのかもしれない。
ただ、この小さな隊士が、仲間に頼ることもなく、たった一人で、しかも正気を失った状態で倒したのだ。
彼女の内に秘められた力は、もはや下弦の鬼などではない。上弦の鬼に匹敵するほどの力を、彼女は一瞬で開花させたのだ。
愛染はそのまま床に倒れ込んだ。制服の「滅」が両親の血で紅く滲む。
俺たちは、彼女に駆け寄った。彼女の顔はまるで死んでいるかのような白さで、ただ涙を流して気を失っていた。
「…知令…」
俺は、彼女の肩に手を置いた。その手は、冷たく、まるで命が宿っていないかのようだった。
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