第10章 父との約束、母の温もり
私は、鬼を振り払い、屋敷の奥へと駆け込んだ。そこに広がっていたのは、悪夢のような光景だった。下弦の鬼が、両親を、まるで玩具のように弄んでいる。父は、右腕が切断され、血を溢れさせながら、母を庇うように立ち、母は、腹部を裂かれ、口から吐血、父の足元で血を流していた。
下弦の鬼だと、私の頭の片隅が警告していた。その血に染まった瞳は、遊びを楽しむかのように歪んでいる。
「それ以上、お父様とお母様に近寄るな…近寄るなぁぁぁ!!!」
私は叫び、日輪刀を構える。こうしている間にも母の着物の柄が、温かい血でゆっくりと黒く染まっていく。
「愛の呼吸…弐ノ型!愛及屋烏!!」
大切な人たちを守るため下弦の鬼に対して、複数の攻撃を同時に繰り出し、相手の行動を封じようとした。けれども今までの鬼とは比べ物にならない。鬼に躱されてしまい、複数の攻撃を出した反動で筋肉が硬直し動かなくなる。その隙に鈍い音と共に私は地面に叩き落とされた。
「知令!お前は鬼殺隊士だろう!お前が…お前が、私たちを…」
父は、私を、そして鬼殺隊を、信じていた。その瞳には、恐怖と、そしてわずかな希望が宿っていた。
絶対に救う。何があっても。
顔を上げて、身体を起こす。
父の希望を本物にしたくて。
「ハハハ!鬼殺隊が何の役に立つ!」
鬼の嘲笑と共に、容赦ない一撃が、父の体を捉える。父の体が宙を舞い、鮮血が舞い散る。父の苦悶の表情が、私の目に焼き付いた。そして、次の瞬間、母の首筋に、鬼の鋭い爪が深々と食い込んだ。
「いやあああああああああああああ!」