第10章 父との約束、母の温もり

「あら、知令ったら、また難しい顔をして。どうしたの？」

温かい声が聞こえ、母が、私の隣にそっと座った。母の手からは、いつも、優しい花の香りがした。

「お母様…」

母は、私の頭を優しく撫でると、微笑んだ。その手は、父とは違う、柔らかで、温かい感触だった。

「知令、夕餉の支度ができたわよ。今日はお豆腐と季節の野菜を炊いたご飯。あなたが好きな味付けにしておいたから。」

母の優しい言葉に、私は胸が温かくなるのを感じた。母の手料理は、いつも私の心を癒してくれた。特に、母が作るお豆腐と季節の野菜を炊いたご飯は、私の大好物だった。口に入れると、優しい出汁の味がじんわりと広がり、心の奥底に染み渡るようだった。

「お母様、とても美味しい…幸せだなぁ。」

私がそう言うと、母は、嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ、あなたがそう言ってくれるなら、いつでも作るわよ。」

母の笑顔は、まるで春の陽だまりのようだった。その笑顔を見るだけで、私の心は、いつも安らぎに満たされていた。

「この間、あなたが刺繍をしていた布、もうすぐ完成しそうね。」

母は、私の手から刺繍の布を受け取ると、静かにそう言った。

「…はい。蜜璃さんへの贈り物にしようかと…。」
「あら、そう。きっと、喜んでくださるわ。あなたの刺繍は、頑張って作っていたし、とても丁寧で、心がこもっているもの。」

母は、私の刺繍を、まるで自分のことのように喜んでくれた。母と二人で、他愛もないおしゃべりをしながら、刺繍をする時間。それは、私にとって、かけがえのない、宝物のような時間だった。