第9章 透き通るは昔の記憶
鬼を討伐し、洞窟から出た私たちは、ゆっくりと屋敷へと向かった。
その道中、時透さんは、私のことを見つめながら静かに言った。
「…君、すごいね。僕の言葉を信じてくれたんだ。」
彼の言葉に、私は少し頬を赤らめた。
「…はい。勿論、柱だから信用したというのもあるけど…時透さんのお言葉、私にはとても大切なものに思えました。」
それを聞いた時透さんは、少しだけ、本当に少しだけ、微笑んだ。
「…そっか。よかった。僕、君のこと、忘れちゃいそうで怖かったんだ」
彼の言葉に、私は驚きを隠せなかった。
彼は、自分の記憶が曖昧なことを、自覚していた。
「…忘れないでくださいね。私は弱いけど、あなたのこと、ちゃんと覚えていますから。」
「…うん。」
時透無一郎という、掴みどころのない少年は、心の奥に隠された、もう一つの顔があるのではないか。そして、彼の心を覆う深い霞を、私の愛の呼吸で晴らすことが、もしかするとできるのではと思った。