第9章 透き通るは昔の記憶
「…僕、あの雲の名前、なんだっけ…?なんか、鳥みたいな形してる…。」
彼の言葉に、私は再び戸惑った。
「ええと…。」
彼は、柱という、鬼殺隊の中でも特別な存在なのに、まるで子供のような、掴みどころのない人だった。
私は、彼のことをどう接すればいいのか分からず、困惑した。
すると、私の肩に止まっていた銀次郎が、大きな声で言い放った。
「ケッ!この子が愛染知令!真面目なアホだ!時透様、この子をビシビシ鍛えてやってくれぇ!」
銀次郎の言葉に、私は顔を赤くした。
「…銀次郎、余計なことを言わないでください!」
私の言葉を聞いた時透様は、銀次郎をじっと見つめ、そして、銀次郎と同じくらい大きな声で言い放った。
「…えっと、その鳥さん、可愛いね。」
彼の言葉に、私と銀次郎は、二人とも、呆然としてしまった。
時透さんと合流した私たちは、深い山の中を進んだ。
道中、彼は相変わらずぼんやりとしていて、私のことなど全く気にしていないようだった。
「…あの雲、なんだか大福みたいだね。」
時透さんは、空に浮かぶ雲を指差した。
彼の言葉に、私は思わず微笑む。
「…はい、とても美味しそうに見えますね!」
「そうかな…? 君もそう思うんだね!」
時透さんは、少しだけ、本当に少しだけ、私に興味を示してくれた気がした。
可愛いな。って思ってしまうのは私よりも年下の風貌をしているからだと思う。実際には年は下と聞いているし。
「…ところで、君はなんて名前だっけ…?」
彼はまた私の名前を忘れていた。私は少しがっかりした。しかし、すぐに気を取り直して、再び自己紹介をした。
「…私は、知令愛染と申します!」
「…知令、か。ふーん…。」
時透さんは、私の名前を復唱すると、再び空を見上げた。
本当に何を考えて生きているのか、分からない方だ。
「…銀次郎、時透さんは、本当に私のことを忘れてしまうんだね。」
「ハハ!それがお前の存在感の薄さだ!存在薄いのお前には、ちょうどいい罰だ!」
銀次郎は、私の言葉をからかうように鳴いた。私は、銀次郎の言葉に反論することなく、顰めっ面をしたまま、ただ黙々と歩き続けた。