第8章 蛇の恋色、愛の色
「伊黒さん、そんな言い方しないで! 知令ちゃん、一生懸命頑張ってるんだから!」
蜜璃さんは、伊黒さんの腕に抱きつき、私のことを庇ってくれた。
「それに、知令ちゃんはとっても優秀なのよ!鬼のことをたくさん調べて、いつも私のために作戦を考えてくれるの!」
蜜璃さんの言葉に、伊黒さんの視線が、私に向けられた。
「…ほう。頭脳明晰、だと?下賤な者が、そのようなものを持ち合わせているとでも?」
彼の言葉は、私にとって、ひどく突き刺さった。
私は、気弱な性格ゆえに、いつも自分の存在価値に自信が持てなかった。それでも、蜜璃さんのために、と必死に頭脳を鍛え、鬼について調べてきた。しかし、彼の言葉は、私の努力を全て否定するようだった。
「…っ、私は…!」
私が言葉に詰まっていると、蜜璃さんが再び私のことを庇ってくれた。
「伊黒さん、もうやめて! ねぇ、大丈夫?」
蜜璃さんは、私の手を優しく握ってくれた。その手は、彼女の雰囲気そのままに、温かく、柔らかかった。私は、彼女の優しさに、思わず涙が出そうになった。
「…私は、まだ未熟者です。蜜璃さんのお役に立てるよう、精一杯努めます。」
私は、震える声で、しかし、はっきりとそう告げた。
私の言葉を聞いた伊黒さんは、何も言わなかった。ただ、その鋭い視線は、私から離れることはなかった。
この日、私は、柱という存在の圧倒的な力と、冷たい厳しさ、そして、温かい優しさを知った。