第1章 『普通』
同時に、私は自分がどれだけ無力で、何の役にも立たない存在なのかを痛感した。
「すごいな…」
私は思わず呟いた。彼の強さは、決して刀を振るうことだけではない。人を思いやる心、どんな逆境にも負けない強さ。それは、私の持つ平和な世界には存在しないものだった。
その日の帰り道、炭治郎は私に一つ質問を投げかけた。
「あの、もしよろしければ、お名前を教えていただけませんか?」
「…愛染知令と申します。」
私が名前を伝えた時、彼の瞳の奥に、何か強い光が宿ったのを見た気がした。
その夜、私は自室で一人、静かに考えを巡らせていた。
炭治郎や彼の仲間たち、そして産屋敷邸で会った柱たち。彼らは皆、私の知らない世界で、命をかけて戦っている。鬼に家族を殺され、それでも前を向いて生きる彼らの姿は、私にとってあまりにも眩しかった。
私は何一つ特別なものを持たない。剣の腕もない、体力もない、そして鬼の恐ろしさも知らない。しかし、このまま平和な箱庭の中にいて、誰かの犠牲の上に成り立つ平和を享受しているだけでいいのだろうか。
「…私にも、何かできることがあるはずだ。」
そう強く思った。
私は、何の取り柄もない私でも、彼らの力になりたい。そう決意した瞬間、私の世界は初めて、色鮮やかに輝き始めたのだった。