第4章 分析したい、風の気持ち
それは、不死川さんの声だった。私は、彼の声のする方へと、静かに近づいていった。
庭の隅にある木の下で、不死川さんは、鬼に殺された家族の位牌を前に、一人、静かに泣いていた。彼の顔に刻まれた傷跡は、まるで彼の心の傷を象徴しているようだった。
「…ごめんな…俺が…俺がもっと強ければ…」
彼は、そう言って、位牌を強く抱きしめていた。彼の体からは、鬼に対する強い憎しみではなく、家族への深い愛情と、守れなかった後悔が、静かに溢れ出ているようだった。
「…不死川さん…」
私は、彼の背中にそっと声をかけた。彼は、驚いたように振り返り、私を見て、目を見開いた。
「…なんで…お前…」
彼の声は、怒りではなく、動揺に満ちていた。
「…私は…あなたの悲しみを…分かち合いたいです」
私は、彼の前にそっと座り、自分の日輪刀を見せた。
「…私の呼吸は、愛の呼吸。大切な人を守りたいという思いから生まれた呼吸です。私には…あなたの鬼への憎しみは分かりません。でも…あなたの家族への愛は…分かります」
私の言葉に、彼は何も答えなかった。ただ、静かに、私の日輪刀と、私の顔を交互に見つめていた。彼の瞳には、もう怒りも憎しみもなかった。ただ、深い悲しみと、そして、ほんの少しの安堵が浮かんでいるようだった。
「…俺は…俺は、あいつらを…守れなかったんだ…」
彼は、そう言って、再び涙を流し始めた。私は、何も言わずに、ただ彼の隣に座り続けた。
夜が明け、太陽の光が庭を照らし始める。不死川さんは、もう泣いていなかった。しかし、その瞳は、昨日までとは違う、穏やかな光を宿していた。
「…お前…変な奴だな。」
彼は、そう言って、静かに微笑んだ。それは、一瞬の出来事だったが、私が見た初めての、彼の笑顔だった。