第4章 分析したい、風の気持ち
その日の夜、私は庭で、鬼の分析ノートを広げていた。しかし、頭の中には、不死川さんの怒鳴り声が響き、なかなか集中できない。
「…お前…こんな時間に何してやがる。」
背後から、低い声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこにいたのは、不死川さんだった。
「し、不死川さん…」
私は、思わず立ち上がった。彼の顔には、鬼との戦いでついたであろう、無数の傷跡が刻まれている。その瞳は、鬼への憎しみに満ちているようだった。
「…はっ、誰かと思えば最近噂のお嬢様じゃねぇか。お館様に気に入られてコネで入った無能。…で、そんな無能が俺に何か用か。」
言葉が直球で心に刺さる。彼の声は、冷たく、そして拒絶の意が込められているのがよくわかった。
「…いえ…ただ、あなたが…」
私が言葉を詰まらせると、彼は私の手元にあるノートを奪い取った。
「…なんだ、これは。鬼の分析…?こんなもんで、鬼が倒せると思ってんのか?」
彼は、私のノートを嘲笑うように、そう言った。私は、何も言い返すことができなかった。彼の言葉は、私の心を深く抉った。
「…お嬢様には、鬼殺隊は向いてねぇ。さっさと家に帰って、お人形遊びでもしてろ。」
彼は、そう言って、ノートを私に投げ返した。そして、踵を返し、歩き出した。
彼の言葉は、かつて私に「向いてない」と言った上杉くんの言葉と重なった。しかし、彼の言葉には、隊士の言葉にはなかった、深い孤独と、悲しみが隠されているように感じた。
「…待ってください!」
私は、思わず彼の後を追った。
「…どうして、そんなに…鬼を憎むのですか…?」
私の言葉に、彼は立ち止まった。そして、静かに、私を振り返った。
「…お前に、俺の気持ちが分かってたまるか」
彼の瞳は、怒りに満ちていた。しかし、その瞳の奥には、ほんの少しだけ、揺らぎが見えた気がした。
「…私は…あなたの悲しみを、すべて理解することはできません。でも…あなたの悲しみを…分かち合いたいです。」
私の言葉に、彼は何も答えなかった。ただ、静かに、夜空を見上げていた。その背中は、あまりにも孤独だった。