第3章 水面に浮かぶ静かな村
鬼を倒し、静けさが戻った湖畔で、私は膝から崩れ落ちた。
「ふぇぇ…」
先ほどの戦いで、鬼の攻撃を躱しきれず、右の太ももを深く斬られていた。日輪刀は、なんとか私を傷つけまいと、刀身に纏わせた愛の呼吸の力で致命傷を避けてくれたが、血が止まらない。
そして全身の強打。骨は折れてない。受け身をとったからだと思う。でも痛みは収まっていなかった。
「お前…」
冨岡さんが、無言で私の元へ歩み寄ってきた。彼は、私をじっと見つめ、その冷たい視線に、私は思わず顔を背けた。
「ご、ごめんなさい…私がもっと強ければ…精進しないと…」
「…馬鹿か」
彼の声は、冷たかった。しかし、その声には、怒りや軽蔑の感情は含まれていなかった。
「…無力なのは、誰しも同じだ。俺も、お前も…」
彼は、そう言って、静かに私の隣に腰を下ろした。そして、何も言わずに自分の羽織を脱ぎ、私の太ももに巻き付けてくれた。
「…冨岡さん…」
「…黙れ。出血が酷い。このままでは…」
彼の声は、ひどく震えているように聞こえた。私は、彼の優しさに触れ、思わず涙が溢れてきた。
「…ありがとうございます…」
「…礼など、いらん。それより、なぜお前の呼吸は、あの鬼に通じなかった?」
彼の言葉に、私は顔を上げた。