第3章 水面に浮かぶ静かな村
冨岡さんと別れてから、私は一人、村の近くにある湖のほとりに来ていた。夜空に浮かぶ月が、湖面に静かな光の道を作っている。
「…水の呼吸…」
私は、彼の放った技を思い出す。それは、まるで湖のように静かで、しかし、その奥底には、深い悲しみが隠されているようだった。
「知令、おい!お嬢様!いつまでボーッとしてんだ!」
肩に止まった銀次郎が、私の頭を嘴でつついた。
「いて。…ごめんなさい、銀次郎。少し考え事を…」
「ケッ!お前はいつもそうだ。考えてばかりで、足が止まる。さっさと鬼を探すんだよ!」
銀次郎はそう言って、再び夜空へと飛び立っていった。私は、銀次郎の言葉に頷き、再び村へと向かった。
村に戻ると、私はまず、村人たちから鬼の情報を集めた。鬼の被害に遭った場所、時間、そして、鬼の特徴。それらをすべてノートに書き留め、分析を始める。
「鬼は、どうやら湖の水を嫌うみたいですね…」
私は、村人たちの証言から、一つの仮説を立てた。鬼の被害は、すべて湖から離れた場所で起きている。湖畔には、一つも被害が出ていない。
「銀次郎、鬼の匂いは、湖の近くではしないのですか?」
「…チッ、言われてみれば、そうだな。湖の近くは、鬼の匂いが薄いぜ」
銀次郎の言葉に、私の仮説は確信へと変わった。鬼は、何らかの理由で湖を避けている。