第3章 水面に浮かぶ静かな村
彼は、私をじっと見つめ、静かに言った。
「…誰だ…?」
彼の声は、氷のように冷たかった。私は、彼が柱の一人、水柱・冨岡義勇であることに気づいた。
「…いえ、すみません…勝手に、あなたの呼吸法を見て、感嘆してしまいました…」
私は慌てて頭を下げた。しかし、彼は私を無視し、踵を返して歩き出した。
「…待ってください!」
私は、思わず彼の後を追った。
「あなたのような剣士が、なぜこんな場所に…」
「…何の用だ。ここは、お前の来る場所ではない。」
彼は、私の言葉を遮るように、そう言った。彼の声は、冷たく、そして拒絶の意が込められていた。
「…私は、あなたのみたいな強い柱のようになりたいのです。私の呼吸は、まだ未熟で…」
私は、必死に訴えた。しかし、彼は私を振り返ることもなく、ただ歩き続ける。
「…黙れ。俺は、柱ではない。そんなことを言う資格はない。」
彼の言葉に、私は驚き、そして戸惑った。彼は、あれほど強い剣技を持っているのに、なぜ自分を柱ではないと言うのだろうか。
「…どうしてですか?あなたは、とても強いのに…」
「…俺にはこの村の人々の悲しみも、怒りも、そして、守りたいという気持ちも…分からない。」
彼は、そう言って、静かに立ち止まった。その背中は、どこか寂しげで、悲しみに満ちているようだった。
「…そんなことはありません!あなたは、今、鬼を倒して、村人を守ってくれました!それは…」
私は、彼の言葉を否定した。しかし、彼は私の言葉を最後まで聞くことなく、再び歩き出した。
「…関わるな。お前も、いずれ、俺と同じになる。」
彼の言葉は、私の心を深く抉った。彼の瞳の奥に隠されていた悲しみは、一体何なのだろうか。私は、ただ、彼の遠ざかる背中を、静かに見つめることしかできなかった。