第2章 頭脳という刀
藤襲山。鬼殺隊の最終選別が行われるその山は、麓から中腹まで、一年中、藤の花が咲き乱れている。その甘く優しい香りは、鬼を寄せ付けないためのもの。
しかし、山頂付近には、鬼殺隊によって捕らえられ、閉じ込められた鬼が多数生息しているという。
「七日間生き残ること…」
最終選別の説明を聞きながら、私は手に握られた濃い赤色の日輪刀を強く握りしめた。
私の隣には、真剣な眼差しで説明を聞く同期たちが並んでいる。炭治郎は、その中にいなかった。それもそのはず、彼は、私よりも早く最終選別を終えていた。
「…行くぞ。」
ある少年が、そう言って先に足を踏み出した。それに続くように、次々と同期たちが山の中へと消えていく。私は、彼らの背中を見送り、自分自身に言い聞かせた。
「大丈夫。私には、私の戦い方がある。」
山の中は、藤の花の香りが徐々に薄れていき、代わりに湿った土と、不気味な獣の匂いが混じり合った空気に変わっていく。夜の闇が、私の心を包み込む。
「愛の呼吸…」
私は、蜜璃さんとの修行で身につけた呼吸を整えた。
私の胸に宿る、大切な人を守りたいという思い。それが、私の呼吸の源泉だ。
その夜、私は初めて鬼と対峙した。それは、人の形を歪ませた、醜悪な姿をした鬼だった。
「ひひっ…なんだ、こんなお嬢ちゃんまでいるなんてな…喰ってやる…」
鬼が襲いかかってくる。怖かった。初めて鬼と対峙したのだから。
でも私は、刀を力強く振るうのではなく、冷静に鬼の動きを観察した。蜜璃さんとの修行で身につけた、しなやかな体で鬼の攻撃を躱す。そして、呼吸を整え、鬼の急所を狙う。
「愛の呼吸…壱ノ型…鴻雁愛力…」
私の刀は、鬼の頭部をかすかに斬りつけた。鬼は、予想外の攻撃に驚き、怯んだ。その隙に、私は後退し、鬼の攻撃範囲の外へと逃れた。
微力でも、私の攻撃が通用した。それだけでも私は嬉しかった。