第15章 記憶の断片 【時透編 第1話】
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(……まただ。)
霞のようにぼやけた夢。
ポニーテールの女の子の声が確かに耳に残っている。けれど顔は見えない。
ぼんやりとした笑顔と、かすれた声だけが胸の奥に刺さって離れない。
「無一郎くんって、どう思っているの?」
あの問いかけ。
僕は答えたはずだ。けれど、その言葉の先がどうしても思い出せない。
まるで誰かに封じられたみたいに、霞がかかっていて…。
(僕は……なんて答えたんだろう。)
夢だとわかっているのに、心臓が少し痛む。
息をするたびに胸が締めつけられるのはなぜだろう。
顔も名前も思い出せない女の子なのに、どうしてこんなに懐かしいのだろう。
……僕は誰かと、確かに一緒にいた。
誰かと、笑い合っていた。
その記憶が、霞の奥で微かに光っている。
でも、掴もうとすると霧みたいに指の隙間からすり抜けてしまう。
(これは本当に夢なのか。それとも……忘れてしまった現実の欠片なのか。)
胸の奥に沈んでいく感覚に、思わず拳を握りしめる。
答えは出ない。ただ、ひとつだけ確信していることがある。
──僕はあの子と、確かに繋がっていた。
それだけは、どうしても否定できない。